RAIN DOGS

ボクラハミンナイキテイル

夏の光

 横断歩道を渡るべく歩道の端に立ち、何となく目を遣った4車線の車道の向こう側。信号機の横に、義足をつけた女性が立っていた。やがて信号が青へと変わり、人々が一斉に車道を渡り出す。
 二十代半ばくらいだろうか。水色のシャツに、白いカバンを抱き、白いミニスカート、白い靴を履いて、ポニーテールに結んだ髪の毛をリズミカルに揺らしながら、動作も柔らかく、まっすぐに前を見据えながら歩いて来た。右足が金属のシャフトである事が不思議に思えるくらい、動きに違和感を覚えなかった。もっと言えば、金属の脚が必然であるような気さえしてくる。彼女は毅然と、両の脚を周囲に見せびらかし、颯爽と歩いていた。


 横断歩道の中ほどで僕は右側に進路をずらした。右手に在るコンビニへ行く為。というのは嘘で、本当はその女性と対峙するのを躊躇したからだ。それは何故か。彼女の不遇に憐憫の情を持ったのかも知れないし、強くしなやかな光を放つ、明らかな美へ対する恐れなのかも知れない。それかはたまた、クローネンバーグが撮った「クラッシュ」の中の、ロザンナ・アークエットの強制具を装着した脚の、倒錯的な美しさを思い起こしたからなのかも知れない。


 彼女は僕の3メートル先を、白いスカートを翻し、進化した人間であるが如き面持ちで、夏の光の中を歩き去って行った。