昼休み。小諸蕎麦でうどんでも啜ろうかと、寒風吹きすさぶ中マフラーを首にぐるぐるに巻いて道を歩いていると、向こうから三輪自転車に乗った年輩の女性がやってきた。自転車の前部に固定されたカゴには、色とりどりの毛布やらタオルケットやらが無造作に詰め込まれており、運転している女性自身もこれまたいろんな色柄の服を重ねて着込んでいるので、まるで布の行商のようである。
そんな姿をぼんやりと眺めながら歩き続け、二メートル先まで近付いてようやく、カゴに詰め込まれた毛布の中から小犬が顔を覗かせている事に気がついた。チワワだろうか。体毛が短く顔が若い。彼(若しくは彼女)は、僕の傍らを通り過ぎる頃には毛布からすっかり頭を突き出し、この季節にはめずしい柔らかな陽光を心地良さそうにに受け止め、冷たい風に眼を細めていた。
やがて走り過ぎる彼らの後ろ姿を見送りながら僕は考えた。あの役がやりたい。つまり、あの小犬に成り代わりたい。何というか、あの毛布に埋もれたカゴの中がとても居心地の良さそうな場所だったのだ。もし将来、僕が年老いて足腰が弱りきって歩けなくなったら、誰かに介護を受けながら、車椅子に乗せられて穏やかな冬の光の中を散歩するのも悪くないな、と思った。