RAIN DOGS

ボクラハミンナイキテイル

days

聖なる空き地

小学生の頃、ある夏の早朝に、僕は近所に在る草ぼうぼうの空き地で孵化したばかりの蝉を見た。隣地の人家のブロック塀に沿って雑草が高く生い茂っていて、その雑草の一様に真っ白な蝉が止まっていた。そんなものを見たのは初めてだったので、僕はハッとして…

空の色は秋へ

この二日間、僕は漠然とした後悔と罪悪感に苛まれていた。それは未だに続いていて、何かしらの答えが出る気配すらない。不思議なのは、後悔する事が在るのは何となく解るにしても、罪悪感に苛まれるというのがよく解らない。何しろそんな覚えがない。しかし…

空蝉

昨夜遅く、ベランダへ通じるガラス戸を開けると蝉が飛び込んできた。部屋の明かりに呼ばれたのか、暫く部屋の中を飛び回った後に窓際のカーテンへしがみついた。さすがにそこで鳴かれたらとんでもなく煩いだろうなと思い、僕は指でつついて外へと追いやった…

夏の光

横断歩道を渡るべく歩道の端に立ち、何となく目を遣った4車線の車道の向こう側。信号機の横に、義足をつけた女性が立っていた。やがて信号が青へと変わり、人々が一斉に車道を渡り出す。 二十代半ばくらいだろうか。水色のシャツに、白いカバンを抱き、白い…

甘く危険な香り

二週間くらい前だろうか。通勤電車の途中駅で乗り込んできた若い男女。入社したてであろう会社員。男の方は、まあ特に興味は持てない風貌で、片や女の方は大変な美人であった。薄いウォームグレイのスーツを着こなし、少し捲きの入ったセミロング、日夜身体…

願わくば

彼らの希なる繋がりと、それぞれに抱える未来が、費えることなく、ずっと続いて行きますように。

鮮烈で圧倒的な美しさ

というものは、大変困った事に、残酷さと同衾しているように思う。それを観る我々は、畏れ、平伏し、使役されるしかないのではないだろうか。

首都脱出

2月の終わりに見た夢の話。 ★ 夜半過ぎ、地響きのような轟音に目を覚ました。僕は何故かその時、本郷台地の上に建つ古い旅館に泊まっており、畳敷きの部屋で布団に寝ていた。木枠の窓をビリビリと鳴らす音に驚き、飛び上がるように起き上がった僕は、窓外の…

深更

冷んやりとして乾いた夜。隣人か、それとも別の人家であるか、テレビの音が聞こえてくる。垣根の下で猫の鳴く声がする。自転車に乗った女達の話し声が通り過ぎる。中国の言葉で誰かが携帯電話に話しかけている。近くの線路からはレールの軋む音。遠くに自動…

人との間

血縁で、そりの合わない相手とは、出来るだけ傷つけたり傷つけられたりしないように、ある程度の距離を保ったまま付き合っていくしかないのだろうな。いずれどちらかがこの世を去るまで。

日常的感覚の喪失

仕事が多忙を極め、その後の震災の余波により一月も何も書かないでいた。なーんにもする気になれなかったのね。そして、まだ震災後の影響は消え去ることなく続いているし、今後もどういった形で新たな影響が出てくるのか予断を許さない状況ではあるが、気持…

日常的疾患

いつもではないけれど、新しいものや刺激のあるものを受けつけなくなる時期がある。 例えば、週末に映画のDVDでも観ようとレンタル屋に行くとする。しかし、棚に並んだ様々なタイトルを眺めてみても、どれも観ようという気になれない。自分で映画を観たいと…

デトロイトのパン屋

毎週末によく利用するパン屋が一軒在る。以前はもう二軒ほど近所に在ったのだけれど、そのどちらも建て替えの為なのか、それとも単に店を閉じただけなのか判らないが、三年ほど前に無くなってしまった。なので近所にはもうここしかないのである。一応イトー…

冬の歩道

昼休み。小諸蕎麦でうどんでも啜ろうかと、寒風吹きすさぶ中マフラーを首にぐるぐるに巻いて道を歩いていると、向こうから三輪自転車に乗った年輩の女性がやってきた。自転車の前部に固定されたカゴには、色とりどりの毛布やらタオルケットやらが無造作に詰…

こんにゃく

今年になって、僕はこんにゃくが嫌いになってしまった。 昔から油で炒めたこんにゃくは苦手だった。どう表現していいか判らないけど、油で炒めると「えぐみ」みたいな味がするので、それがどうも嫌なのだ。昔はそれでも腹が減っていれば食べたんだけど、今は…